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【ひとりごと】助け合いの血が流れている


まず、言わせてください。
M9.0東日本大震災で被災した多くの方々へ、謹んでお見舞い申し上げます。
皆様の心の平穏が早く来るよう祈り、また私ができる協力をしていきます。


管理人の帚木56です。
私のところでは、本棚が揺れる程度で被害はありませんでした。
水、ガス、電気のストップはありません。ご心配なく。
皆さんは無事でしょうか。被害がないか気がかりです。


東日本大震災。
戦後最大級の国難となってしまいました。
まだまだ不安が残り、悲しい知らせばかりが続いています。

また、東京周辺では食料の買占めが始まっています。
コメ・水・乾麺・カップ麺類が軒並みスーパーやコンビニから消えています。
そして何故かトイレットペーパーをどの人も買っていて、不思議な光景でした。
物流が止まるからといって、そこまでしなくても…
群集心理とは面白い現象ですね。
(私はなぜか、誰も買ってないクラフトテープを買いました)

しかし。
そんな中でも、心温まる話もあるんです。
例えば、こちら。
地震発生後、Twitterで投稿された心に残るつぶやき

私はこれを読んで泣きました。
まだまだ私達の中には、ちゃんと根底に助け合いの血が流れてる。
無縁社会なんて言われますが、本当はみんな助け合えるんです。
それが表面化したきっかけが今回、大地震という国難でありました。

私達はこの国難を機に、生まれ変わらなければならないのではないでしょうか。
たくさんの命が犠牲になった意味は?
あれほど大丈夫だと言われていた原発は今どうなっている?
被災しなかった人が、今できることは?これからしていくことは?
日本の未来をどうしていきたい?

一人一人、被災した方を支援しつつ考えてみましょう。
感情を切り離し、ルーチンワークとなった毎日から抜け出して。

今回の計画停電は、私は良い機会だと思っています。
経済損失は凄まじいでしょう。確実に利益が減ります。
けれど、それ以上に生まれる時間の有益性は高いはずです。

本も読めません。
テレビも見れません。
お風呂も入れません。
暖房器具ももちろん点きません。

どうかケータイやゲーム機器、音楽プレイヤーで時間をつぶすのではなく、
これからの日本を考えたり、自分の将来を考え直す時間にしましょう。




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【1記事小説】救われたいし、救いたい(約2900字)


白い息を吐いてサラリーマン達が家路を急ぐ平日の夜。
騒がしい飲み屋の一画では、すでに酔いが回った男たちが熱く語りだしていた。

少し狭い座敷は、それでもかつての部室を思い出させて緊張をほぐすきっかけになった。
高校時代の部活仲間は、離れていた距離などものともしない大きな声で笑う。
都会では聞かない訛った声が通路を通る他の客をも笑わせていた。


「しっかし、圭一が店長やってるとはなぁ~。同い年とは思えねぇわ。」
「まぁ大変だよ、人をまとめるってのも。若い奴らにもどんどん仕事任せる会社でさ、正直プレッシャーなんだけどな。」


グラスをもつ圭一の腕には高級な腕時計がはめられている。
壁にハンガーがけされたスーツの上着は名前入りのブランド物だ。
けれど周りは一人としてその価値に気付けない。
彼はそれが少しつまらなく感じつつも、優越感を感じていた。


「健吾、お前雇ってもらったらいいんじゃねぇか。いつまでもバイトじゃやべえだろ。」
「おいおい、そこで俺の名前を出すなよ。死にたくなるわ。」
「30手前にして独り身ってのも、バイトのお前だけだしな。」
「いいんだよ。俺はこれで楽しく生きてるんだから。ほっとけよー。」


健吾のいじられ方は、高校時代と何も変わらなかった。
中途半端な人見知りで、友達は多くない。頭が良いわけでもなく、運動も得意ではない。
けれど異常にパソコンが好きで、それは大人になった今でも変わらなかった。

哀れだなと圭一は心の中で思う。
愛されキャラとは体のいい表現だけれど、裏を返せば馬鹿にされているってことでもある。
それで良しとするのは本人の自由だが、向上心がないという判断を下さざるを得ない。
不合格、と彼は内心でつぶやいて枝豆を口に運んだ。


現状報告と懐かしい過去の栄光について一通り話し終えると、
同窓会の雰囲気は消え、おのおのが個人的な話をし始めた。


(あとはこいつらの愚痴だけだな。そろそろ帰るか。)


結局、自分の刺激になるような話も人間もいなかった。
次の同窓会の参加はないだろうな、と無感動に考えて圭一が立ち上がろうとした時。
トイレから戻った健吾が空いた隣の席に座ってきた。


「圭一。高校の頃、一緒にショートムービー作ったの覚えてるか?」


残り物の枝豆やモロキュウに手を付けながら、楽しそうに話し出す健吾。
同窓会の意味をすっかり忘れていた圭一は慌てて返答する。


「部活でたくさん作ったからな。どれの話だ?」
「なんだよー忘れたのかよ。俺とお前二人で作ったやつだよ。」
「…そんなのあったか?」
「ムービーっていうか、映像制作の色が強かったな。圭一が素材を作って、俺が編集したんだ。」
「…あー、えーと、そういうのもやったような記憶はある。」
「あの頃、パソコン使えるの俺だけだったからさ。
 圭一がどうしてもって頼むから俺、テスト前なのに徹夜して作ったんだぞ。」
「そりゃ悪いことしたな。」
「けど、すげぇ良いものができた。みんなにも好評だったし。あのデータ、まだ持ってる?」


当然持ってるよなと言わんばかりの健吾の態度に、圭一は居心地が悪い。
データと言われると、売上げデータのことが真っ先に思い浮かぶ。
今食べている居酒屋メニューも、原価や粗利はいくらなのかを考えてしまう。
圭一にとって仕事が真っ先に考えるべき対象で、それ以外はどうでもよいことだった。


「どうだろ。実家かな。手元にあるとしても、ダンボール漁らないと分からない。」
「ダンボール?」
「今まで引越し続きでさ。荷解きする暇もなくてな。まぁ店長だから、仕方ないんだけど。」
「大変なんだな。体、大丈夫か?」
「休みはジムに通ってるから大丈夫。店長は頭だけじゃなくて体力も大事だからな。」
「それにしては、不健康な肌だと思うけど。」
「そう?あーシフト組むと大体、深夜勤務が多くなるせいかもな。サロン行って焼くかな。」
「・・・。」
「明日も仕事でさ。まったく、店長一人いなくたって店回せねぇのかって話だよな。」
「・・・。」
「ああ、映像データは今度探しといてやるよ。時間空いたときにでも。見つかったら連絡する。」


何だよ、その目。
バイトのくせに。

圭一はテーブルの上に置いていた携帯電話をカバンに入れ、帰り支度を始める。
酔っているせいか、感情的になっていることに彼自身は気付いていない。
マフラーをも乱暴にカバンのなかに突っ込むと、勢いよく立ち上がった。


「バイト。頑張れよ。」


あぐらをかいて見上げる健吾にそう言い放って、圭一は彼を見下ろした。
バイトやってる奴に同情なんかされてたまるかよ。
言葉で言わずとも、圭一の本心は一瞥した目から滲み出ていた。

健吾は怯まなかった。
そして一瞬躊躇った後、暴挙に出る。


「っおわあああ!」


ドシンと畳に大きな振動が伝わり、グラスの中の解けかけた氷がカラリと揺れる。
圭一は足を取られて前のめりに倒れ伏した。
静まり返った座敷で、悪いと健吾の謝罪だけが響く。


「お前、ふっざけんなよ!」


間髪いれず、顔を真っ赤にして圭一が怒鳴る。
けれどテーブルに腕を置いて上半身だけ起き上がった姿では何の緊迫感もない。
本人は本気でも、酒で枯れた喉から出てきた声は上ずって情けないものだった。

すぐに何やってんだよと大爆笑が起きる。
圭一の怒りが益々膨らんだ。


「おい!健吾、お前足掴んだだろ。テーブルの角で怪我でもしたらどうしてくれるんだ。」
「落ち着けって。お前に見せたいものがあるんだよ。」
「そんなもん誰が見るか!明日だって朝から仕事なんだ。お前らに付き合ってる時間なんか―」
「これこれ。お前なら、絶対気に入ると思う。」


そう言って健吾がリュックから取り出したのは、ポータブルゲーム機だった。
使い古されていて塗装面が一部剥げている。今ではかなりの旧式タイプだ。

数秒で操作を終えると、彼はゲーム機を圭一に手渡す。
怒りの収まらない圭一はそれを畳に叩き付けようと思ったけれど、
小さな画面に映った鮮やかな映像に目を奪われてしまった。

めまぐるしく切り替わっていく動画。
その中でデジタルな声が歌う。
” ありふれた森羅万象 気がつくものに救われる ”


「最初、俺は圭一がこれを作ったと思ったんだよ。
 音楽はともかく、映像はお前が集めた素材に似て―」
「うるさい。黙ってろ。」


健吾はニヤリと笑って、枝豆を食べ始める。

立ち尽くしたまま映像を見入っている圭一の顔が、みるみる変わっていった。
驚愕に見開かれていた瞳が少しずつ、眉間に皺が寄り苛立たしげに細められる。
そうして、曲が終わる頃には涙が溢れていた。


「圭一、また一緒に映像製作やろうぜ。」
「・・・うるせーよ。」
「曲作りも動画制作も俺がやる。お前は素材集めだけしてくれたらいいよ。」
「忙しいんだ、俺は。」
「でも、悔しいだろ?」


健吾に見られないように、片腕でごしごしと目をこする。
鼻をすすりながら、圭一は短くうなずいた。

悔しいと心の底から思った自分を馬鹿らしいと思った。
けれど、心が勝手に震えていた。

懐かしい感覚だと思った。


「なぁ、これ。途中でマイケルとか江頭とか出てくるけど、何で?」
「あーそれは話すと長くなるんだけどさ。」


圭一は映像を指差しながら、健吾の隣に座りなおした。









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以下の動画は、この小説を考えたきっかけになったものです。
おすすめします。

<YouTube>


<ニコニコ動画>

動画をきっかけに小説を書く、という人は他にもいらっしゃるようですね。
なんだか仲間がいるようで嬉しいです。勝手に、ですが(^^;)

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

【1記事小説】本音の伝え方(約1500字)


シャワーを終えた女性が、けたたましい音を響かせてリビングのドアを閉めた。


「最低!女の子の体重計覗こうだなんて、デリカシーのない男!」
「まだ怒ってるのかよ。別にいいじゃん。付き合ってるんだしさ。美保って細すぎだから心配で。」
「そんなわけないでしょ。私より痩せてて可愛い子、いっぱいいるもん。」
「まさか、それ以上痩せたいとか思ってる?」
「もちろん。あと、5キロは普通に落としたいかな。」
「マジかよ、やめてくれよ。」
「浩二がそう言っても、世の中は細い女の子がモテる時代なんですぅ。
 もっと痩せて可愛くなったら他の男の子からチヤホヤされちゃうかもね。」


そう言って今日も狭いワンルームの中、彼女は雑誌を広げてツボ押しと体操を始める。
お気に入りのファッション雑誌を定期購読している美保は、痩せることへの執着が強かった。

小さな顔、細い身体、棒のような太もも。
抱きしめた感触に以前の柔らかさは全くなく、硬い骨ばかりが当たってくる。
同棲している浩二はそのことを悲しく思い、また心配していた。


(雑誌に洗脳されすぎって言っても怒るしな…)


体型や体重を話題にするだけで、美保は怒る。
私は必死に努力して可愛くなろうとしてるのに、と泣かれたこともある。
健気で可愛いと思う反面、今より痩せてしまったらどうしようと浩二は不安だった。


「美保。お前、アンケートって好きだろ?」
「なに突然。」
「最近、面白くて見るようになったWebサイトなんだけどさ。
 知りたいことが多数派なのか少数派なのか質問できるんだ。」
「ふーん。」


ノートパソコンの電源を入れながら、浩二は背後の美保に興味をもってもらおうと言葉を続ける。


「たとえば銭湯へ行ったら牛乳派かコーヒー牛乳派か?とか、和菓子派か洋菓子派か?とか。」
「すごくどうでもいい。」
「う…。まぁ他にもあってさ。馬鹿な質問だと、おっぱい派かお尻派か?とかもあるんだよ。」
「浩二はどっちに入れたわけ?」
「え?!あ、おれはアンケートには参加してないよ。けど結果は見られるようになってる。
ほら、世の中の男達がどっち派か気になるだろ。見てみろって。」


おっぱい派に投票したことを隠して、浩二は美保にノートパソコンを差し出す。
雑誌の上にそれを置かれてしまい、一瞬嫌な顔をした彼女だったが、
ディスプレイに映し出された「投票の多い質問」カテゴリで視線が止まった。


男性に質問!女性の体形はどっちが好き?
細身の体形 VS 少しぽっちゃりの体形



「何これ。雑誌のアンケートと同じ内容じゃん。」
「お、偶然もあるもんだな。雑誌の結果はどうだった?」
「大体、半々だったけど細身のほうが少し多かったかな。」
「同じ結果かどうか、見てみ。」


浩二はニヤニヤしそうな顔を我慢して、美保がタッチパッドに指を滑らせるのを見守った。

無言のまま首をひねる美保。
徐々に眉間に皺がよってきて、何かを思い出すように空中に視線を泳がせる。
浩二に視線を移すと何かを言おうと口を開いたが、彼が先にまくし立てた。


「こういうのって手軽でいいよな。雑誌よりネットのアンケートのほうが簡単だし、
顔も名前も書かなくていいから本音が書かれる場合が多いんだよ。」
「…そんなもんなの?」
「そうそう。この結果からみても、世の男達はダイエットブームを嘆いているってことさ。」
「えー…。」


腑に落ちないような顔のまま、美保は操作を続けている。
機嫌を伺いつつも自分の気持ちを察してもらおうと浩二は懸命に話を続けた。
せめてこれ以上、骨と皮だけの彼女にならないように祈りながら。


「…ちょっと、浩二。」
「ん?なんだ?」
「これは何?
 抱きたい女はどっち。ふわふわ可愛い系キュートVSシャープでスタイリッシュ系クール。」
「うあああああああああ!」


アカウントを記憶させておいた彼のマイページが、美保の機嫌を悪化させた。






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この小説は、以下のWebサイトを元に作成しました。

どっち派?

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

【1記事小説】見開いた瞳に (約2300字)


何年も愛用している自転車が、今日はとても重く感じられた。


「…メガネ、止めたんだ。」
「うん。メガネは中学で卒業したかったんだけど、今までずーっと親が反対しててさぁ。」
「ああ、嫌がりそうだもんな。お前の親。」
「そうそう。で、テストで90点以上を3教科で取ったら許すって約束してたわけ。」
「だからあんなに喜んでたんだ、中間テスト。」
「もうさ、コンタクトってめっちゃくちゃ楽!ずり落ちてこないしさ。」


そう言って、少女はメガネをくいっと引き上げる仕草をしてみせる。
けれど、隣を歩く少年は黒縁メガネのレンズ越しにそれをちらりと見るだけ。
クラスで可愛いと騒がれたぶん、少女はそんな彼の反応がつまらなかった。

学校帰りの並木道。
自転車のカゴには、まだ新しい学生鞄が二つが入っていた。
真冬の風は冷たくて、マフラーの中に顔を埋めて歩く二人。


「うう、寒い!冬の風って女子高生にはキツイわぁ。」
「ジャージ履けばいいじゃん。」
「そんなダサいことしたくない。」
「風邪引くよりマシだろ。」
「寒さより可愛さ!風邪より生足!」
「…あ、そう。手袋は貸してやらないからな。」
「冷たい奴ー!」


グレーのコートからかじかむ手先を出して、息を吹きかける少女。
赤くなった指先と鼻が、その色白の肌によく映えた。
きっと世間一般の男子はこれを可愛いと思うんだろうな、と少年はちらりと見て思う。


(何年も見てるから、全然わかんねーけど。)


二人は小中高ともに同じ学校で、家族同士も仲が良かった。
大人になるにつれ、お互い子供の時のようには接しなくなったけれど、
それでも1つだけ、二人をずっと繋ぎとめていたものがあった。


「ハード?、ソフト?」
「え、コンタクトのこと?ソフトだよ。」
「俺の兄貴と同じ。手入れ、ちゃんとしとけよ。角膜とか傷つけるらしいから。」
「分かってまーす。お医者さんにも友達にも言われた。智明はコンタクトにしないの?」
「手入れがちゃんとできないって、自分で自覚してるからやらない。」
「真面目君だよねー、野田君ってば。」
「不良の森下さんと一緒にしないでほしいね。」
「不良じゃないってば!ちょっと髪染めただけだもん。みーんなやってるんだから。」


不良と言われると彼女がムキになるのを、少年は知っていた。
何故かはわからない。
けれど、からかわれた時に返す常套句になっていて、
このやりとりは中学生の頃からずっと変わらなかった。

一体、いつまでこんな芝居を続けなければいけないのか。
少年の心はここにきて、一気に揺れ惑う。


(やっぱ志望校、変えればよかった。)


不良だなんて思っていない。
けど、変わっていく姿に気持ちが追いつかない。

少女に置いていかれるような焦燥感が、ずっと少年にまとわりついていた。
制服のスカートの丈を短くして、化粧をし始め、髪を染めて、彼女はどんどん変わっていく。
それが知らず知らず、彼の中にある不安を大きくしていったのだ。

そして、二人の共通点であるメガネ。
少女は何のためらいもなく、それを捨ててコンタクトレンズを選んだ。


「ねーねー、どう?コンタクトな私。けっこう、可愛くない?」
「さぁ。」
「反応悪いなー。けっこう、男子にも好評だったんだよ。」
「あんまり変わんないだろ。」
「嘘だぁ!お父さんにも驚かれたのに。あ、もしかして、可愛すぎて顔見れないとか?」
「馬鹿だろ、お前。」
「馬鹿とか言うな。だったらちゃんとこっち見なさいよ、ほれほれ。」
「うるさい。黙って歩けよ。」


ハンドルを握る腕をぐいぐい引っ張られて、思わず少年は力を入れて振りほどく。
なんでイライラしているのか、少女にも少年にもわからない。
赤い指先が宙に放り出された。


「うわっ!」
「きゃあ!」


その時。
ビル風が公園へと吹き込んで並木道の落ち葉を追い流した。
びゅうっと風音が当たり一面に響いて、痩せた木々の枝がぶつかり合う。

自転車のブレーキを握って、少年は倒されないようにその場に立ち止まっていた。
風が落ち着いてから、カゴに入り込んだ落ち葉を取り出そうと手を伸ばす。


「痛い。」


おちゃらけたような声ではなく、不安そうな声。
少年は一瞬躊躇ってから、頭を抱えたままの少女に視線を移す。


「どうした?」
「痛い。目、痛い。」
「今のでゴミが入った?大丈夫か?」
「痛い痛い。どうしよう、ケースも洗浄液も家なのに。怖い。目傷つけちゃう?」
「だ、大丈夫だって。兄貴も良くゴミ入ったって騒いでたし。」
「痛いーやだやだ。目動かせない。擦っても大丈夫かな。」
「どっち?どっちが痛い?」


少年は手袋を脱ぎ捨てて、少女の腕をつかむ。
後ろで自転車が倒れたことにも気づかずに、両手で彼女の頬を優しく掴んだ。

右目、と弱々しく言う少女。
頬に感じる温かさが嬉しかった。
目も痛いけれど、心も痛くて涙がぽろぽろと溢れてきてしまう。
自分を見てくれたのはいつぶりなんだろう、と胸が締め付けられた。


「痛いー痛いよー。」
「我慢してろって。涙で、勝手にゴミが外に出てくから。」
「ええーん。」
「だからって子供みたいな泣き方はどうかと思う。」


少女の右目を凝視したまま、少年は軽く笑ってみせる。
心配したほど目は赤くもなっていないし、きっとゴミはすでに洗い流されただろう。
親指で優しくぎゅっと下まぶたの裏を見てみるが、充血もしていなかった。


「んー、ゴミらしいのは見えない。取れたかな。もうだいじょう―」


あ、と我に返ると、少年は自分が触れている頬の柔らかさに緊張した。
赤い鼻をもっと赤くさせて、涙に潤む少女の瞳が自分を至近距離で見つめている。
メガネを外した少女の顔は、顎がきりりとしていて、奥二重の両目が可愛かった。

その目が細められる。
ありがとう、と照れくさそうに少女が笑った。

心臓がドクンと大きく跳ねた。
少年は消えない不安の正体を思い知った。








------------------------------------------------------
この小説を書くきっかけになった企業様です。
コンタクトレンズ、昔より本当に安くなりましたね。




※文章を随時、修正しております。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

【1記事小説】手を繋ごう (約1800字)


演奏3分前。
止んだはずの雨が再び小雨となって降り出すと、全員が空に向けて顔を歪ませた。

突然の夕立は叩きつける勢いで舞台と器具を濡らし、ステージ上に湖を作りだした。
激しい雨にライブ中断を余儀なくされ、高まった興奮はすっかり洗い流される。

静まり返る屋外ライブ会場。
けれどその裏では再スタートに向けて慌しく調整が進んでいた。


「ダメだ。雨がまた降り出せば、演奏が途中で切れる可能性がある。
最悪、感電事故にも繋がるかもしれない。分かってくれ。」


小雨での演奏再開を迫るバンドメンバーに、舞台監督が頭を下げた。
それを見てツアースタッフ全員が肩を落とす。

再開はいつになるのか。
誰もが心の中でつぶやいていた。

客席を埋めるファンは誰一人雨具を取り出すこと無く、びしょ濡れのまま。
強制的に冷された熱は、それでも心の中で火種となって燻ぶっている。
ただひたすら、彼の歌声に再燃するのを待ち望んでいる。


「お願い、出てきてよぉ!早く声を聞かせて!」


ファンが泣き叫びながら彼の名を呼んでいる。
その声を聞きながら、彼はずっと舞台袖から離れなかった。
マイクを握りしめ、どこかぼんやりとしながら水の張るステージを眺めていた。

音楽業界に突如、姿を現した美声の持ち主。
細く色白な身体からは想像できないほどの力強い歌声と、
メッセージ性のある歌詞に人々は魅了された。

ネットで多くの反響を呼んだ彼はまたたく間にトップスターとなり、
一年と経たずに、数万人のファンと向き合うこととなった。


「…雨は止むよ。」


彼の小さな独り言は、近くにいた女性スタッフにだけ聞こえていたらしい。
彼女が振り返ったその時には、すでに彼は湖面へと歩き出していた。


「馬鹿、誰かあいつを止めろ!」
「おい!今、出ていったってファンをがっかりさせるだけだ。」
「ライブ中のあいつはぶっ飛んでるんだ。誰か見張っておけって言っただろ!」


そんな仲間達のやりとりも、一瞬でファンの絶叫に掻き消される。
鼓膜が破れんばかりの大音響。前面全てから襲ってくるその凶器に彼はひるまない。
水面に波紋を広げてステージ中央まで来ると、どんよりとした曇り空を見上げた。

彼が握るマイクを、祈るような気持ちで通電させるスタッフ。
客席が静まるのを待って、彼は一人話し始める。


「僕がここにいるのは、大好きな人の死がきっかけなんだ。」


しん、と静まり返る世界。そこにいる全員が彼の言葉に聞き入る。
謎の多い彼には、それこそ何百という噂話も嘘情報も溢れるほどにあった。

彼を照らすライトを、祈るような気持ちで通電させるスタッフ。
小雨で白んだ景色の中にスポットライトがあてられた。


「これを言うと、世界中のたくさんの人から怒られると思う。
でも、どうか僕の話を聞いて欲しい。他の人からの受け売りじゃなく、僕の答えを。
なぜ彼が亡くなったのか。どうして突然、皆の前からいなくなってしまったのか。
それはきっと僕らに必要なことだったからだと思うんだ。」


ざわざわと、ファンは互いに誰のことかと話し始める。
ステージ上からでもその戸惑った表情が見えて、彼はゆっくりと視界を遮断した。
緊張で乾いた喉を一度唾で潤して、言葉を吐き出す。


「あれから、どれだけたくさんの人が彼の意思を受け継いだんだろう。
彼の生き方と愛し方を世界に広めようと、動き出した人はどれぐらい増えたんだろう。
彼の死はあまりにショッキングだったけれど、それは優しい波風のように僕は感じたんだ。
"みんなで変わっていこう"って、世界中の皆に手を差し伸べたように思うんだよ。」


震える声をどうにか振り絞り、彼は思う。
想いを言葉にするのはなんて難しいんだろう。


「こんなこと言っているけど、僕は彼についてそんなに詳しくないんだ。
彼の偉業もあまり知らないし、素晴らしいダンスステップも生で見たことがない。
けど、そんなことは関係ないんだ。全然知らなくたって、彼の手はいつだって僕らに向いてる。
重要なのは、その手を取って、もう一つの手を他に差し伸ばせるどうかなんだ。」


自分の汗ばんだ手のひらを見て、ぎゅっと握り締める。
血の気の失せた白い拳を、夕日の淡い光が照らしていた。


「…大好きな曲を歌わせてください。」


片手を宙に差し出すと、小雨が弱まっているのに彼は気づく。
遠くから差し込むオレンジ色の夕焼けに、幾つもの影が浮かんだ。


貴方が伸ばした手を、決して放しはしません。
優しい風は、今日も吹き続けています。






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この小説を作ったきっかけは、以下の動画です。
おすすめします。

<YouTube>
Hold my hand

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テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

帚木56

Author:帚木56
小説家を夢見てるだけの人。
Web小説の読み書きが趣味。

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